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松山家庭裁判所 昭和41年(家)142号 審判 1966年8月15日

申立人 東谷幸子(仮名)

相手方 東谷昭夫(仮名)

主文

相手方は、申立人と申立人の住所において同居せよ。

理由

(申立の趣旨)

主文と同旨。

(申立の実情)

申立人と相手方とは、昭和三四年三月三〇日婚姻した夫婦であるが、昭和四〇年七月二六日以来別居状態にある。相手方は申立人が昭和四〇年七月三〇日帰宅すると、新しい鍵をかけて申立人を入居させず、やむなく、爾来別居を続けているが、相手方には、申立人との別居を拒む正当な事由がないから、同居の審判を求める。

(当裁判所の判断)

一、審判に至るまでの経緯

本件は、当初申立人から昭和四〇年八月五日付夫婦同居調停の申立てがなされ、当裁判所は、調停委員会を組織し、昭和四〇年八月二〇日を第一回調停期日として、翌昭和四一年二月二一日まで六回にわたり調停手続を進めたが、調停が成立するに至らなかった。その間、調停委員会は昭和四〇年一一月八日午後三時の調停期日において、相手方が申立人と性格が合わないというので、当事者双方に専門医による診断を勧めたところ、双方合意のうえ、当庁技官松山精神病院中本甫医師に精神医学的見地からする診断をうけることとなった。申立人は素直に昭和四〇年一一月中旬頃医師の診断をうけたが、相手方は、当裁判所の勧告にもかかわらず、受診せず、また当裁判所は、昭和四〇年一二月三日当庁家庭裁判所調査官伊藤忠康に命じて、長男康夫の冬物衣類を申立人に渡すよう勧告させたが、これも同調査官の真摯な努力により、漸く、昭和四一年一月二三日持参する始末であり、相手方は当裁判所の夫婦関係調整の努力に対し、非力協的であった。

二、別居の正当性の有無

民法第七五二条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と規定しており、同居は、夫婦の本質的義務であるから、夫婦は、愛情と理解をもって、同居のための方途をみいださなければならない。したがって、夫婦が同居のための努力をなさず、正当の事由なくして同居を拒むことは許されない。

よって、相手方が申立人の同居の請求を拒む正当な事由があるかどうかについて判断する。

前顕伊藤調査官の昭和四一年二月二一日付および同年五月二五日付各調査報告書および申立人および相手方に対する各審問の結果ならびに審理の経過に徴すると、相手方が申立人との同居に応じられない理由として挙示するところは、申立人と相手方との別居は今回で四回目であって、性格が合わないこと、とくに申立人は性格的に強く、気にいらないことがあると物を言わないし、食事の支度もしない。また、相手方の立場も考えずに、相手方の上司に対し故なく中傷し、かつ相手方の親族との折合も悪いというにあり、これに対し、申立人は、相手方との別居は今回が四度目であるが、相手方はこれまで、マージャンにこり、また、給料も家計費に入れないことがあったり、産後に家事をさせるなど別居の原因となる行為を重ねており、また、相手方の挙げる申立人の欠点は、いずれもいわれのねいことであると述べ、両者の言い分は全く対立していることが認められる。

しかしながら、相手方が挙示する申立人の性格面については、医師中本甫の診断によっても、相手方と同居するにつき障碍となるような、異常な点は認められず、その他の点についても、相手方がそれを理由として同居を拒むだけの事由があるとの的確な証拠はない(もっとも、相手方に対する審問の結果中には、申立人が相手方を相手方の上司に中傷したとの供述があるが、申立人のこの点に関する供述に照らして措信できない。)かえって、相手方の供述によれば、相手方は、かつて同僚とマージャンをして徹夜をするなどの不行跡な行為があったほか、当裁判所の審理の経過に徴するも、相手方は自己の意にそわないことには非協力的な態度をとり申立人の非のみを責めて申立人と和合することを断念していることが顕著である。

相手方は同居を拒否する前に、申立人と同居する条件を冷静な気持になって自ら検討し、これに十分努力を払うべきである。このような努力をしないで、同居を拒否しても、法はかかる者に何等の助力もしない。

以上のとおり、相手方が申立人との同居を拒否する正当な事由が認められないから、相手方は申立人と同居すべき義務がある。

三、同居の場所

前顕伊藤調査官の昭和四一年五月二五日付調査報告によれば、申立人は、現在肩書住所に居住して松山市立伊台小学校教諭として勤め、長男東谷康夫を監護養育しており、康夫は現在愛媛大学付属幼稚園に入園して、安定した生活を送っていること、相手方は伊予市立港南中学教諭として勤め、肩書住所から通勤していること、しかして、申立人の現住居は、六畳、四・五畳、三畳のアパートで、申立人の通勤にも、長男の通園にも便利であること、他方、相手方の住居は、興居島にあって、住居は広いが、長男の通園に不便であり、また、相手方の親族が近隣に多いので同居の場所としては適当でないことが認められる。

そこで、当裁判所は、当事者双方が和解して、協議のうえ新住居を定めるまで、しばらくの間は、申立人の住居において同居するのが適当と思料する。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 糟谷忠男)

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